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和歌山地方裁判所 昭和49年(行ウ)3号 判決 1980年2月04日

海南市船尾一一五番地

原告

伊織正治

右訴訟代理人弁護士

西田正秀

田中征史

山崎和友

富永俊造

岡本浩

海南市名高二五五の四

被告

海南税務署長

南春生

右指定代理人

河口進

嶋村源

坂田暁彦

栄田忠男

井上勝

小林敬

小林修爾

主文

1  被告が原告に対し昭和四七年一一月一七日付でなした原告の昭和四五年分所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、課税される所得税が二九九万一〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税が二万四一〇〇円を超える部分について取消を求める請求部分の訴えを却下する。

2  被告が原告に対し昭和四七年一一月一七日付でなした原告の昭和四六年分所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、課税される所得税が二六二万二〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税が一万六二〇〇円を超える部分について取消を求める請求部分の訴えを却下する。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和四七年一一月一五日付で原告に対してなした昭和四五年分以降の所得税青色申告書提出承認を取消すとの処分を取消す。

2  被告が昭和四七年一一月一七日付で原告に対してなした昭和四五年分、同四六年分の所得税の各更正決定処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、化粧品販売を営む者であるが、被告に対し、昭和四五年分及び同四六年分の各所得税につき、昭和四五年分は青色申告の方式により、また同四六年分は白色申告の方式により確定申告したところ、被告は、原告に対し、

(一) 昭和四七年一一月一五日付で昭和四五年分以降の青色申告書提出承認取消処分(以下「青申取消処分」という。)を、

(二) 同月一七日付で昭和四五年分の課税される所得金額を三五四万三〇〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税三万三〇〇〇円の賦課処分(以下後記一部取消後の右処分を「昭和四五年分課税処分」という。)を、

(三) 同日付で昭和四六年分の課税される所得金額を三四五万八〇〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税二万七〇〇〇円の賦課処分(以下後記一部取消後の右処分を「昭和四六年分課税処分」という。)を

それぞれなし、原告に通知した。

2  原告は、同年一二月二五日、右各処分を不服として、被告に対し異議の申立をしたところ、被告は、昭和四八年三月二二日付で右申立を全て棄却し、原告に通知した。

3  そこで、原告は、同年四月一三日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ、同所長は昭和四九年三月二〇日付で、

(一) 青申取消処分については、これを棄却する裁決を、

(二) 昭和四五年分については、課税される所得金額を二九九万一〇〇〇円及び過少申告加算税を二万四一〇〇円とする一部取消、その余棄却の裁決を、

(三) 昭和四六年分については、課税される所得金額を二六二万二〇〇円及び過少申告加算税を一万六二〇〇円とする一部取消、その余棄却の裁決を、

それぞれなし、原告に通知した。

4  しかしながら、被告のなした青申取消処分は違法である。即ち、所得税法は申告納税制度を採用しているが、この制度のもとでは原則として納税者の自主的申告によって納税額が確定するのであるから、税務署において例外的に同法二三四条一項に定める質問検査権を行使しうるのは、適正公平な課税を実現するためにその行使の必要性が合理的に是認される場合のみであり、これを具体的にいうならば、調査者は合理的な調査理由を開示しない以上、臨宅調査を継続しえず、ましてや、臨宅調査拒否を理由として反面調査をすることは許されない。

これを本件についてみると、海南税務署は民主商工会を弾圧するため同会員の原告をねらいうちにし、臨宅調査にあたっては会員の立会いを拒否し、調査理由を明らかにしなかったのみならず、原告本人の不在を見計ったうえ原告方店舗において暴言やおどし文句を吐いたのであるから、原告が調査を拒否したのは正当な権利行使であり、従って、右調査不協力を理由に被告のなした青申取消処分は違法である。

5  また、被告のなした昭和四五年分、同四六年分の課税処分も、次のような違法がある。

(一) 4で指適したように、原告の調査不協力を理由として違法な反面調査を実施し、右調査に基づいて右両年分の課税処分をした。

(二) 右両年分の課税処分は、いずれも原告の所得を過大に確定した。

6  よって、原告は、被告に対し、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3は認める。

2  同4は争う。

申告納税制度のもとでは、納税義務者が税法の規定に基づいて課税標準及び税額等を計算し申告することによって、具体的な納税義務が第一次的に確定するのであるが、右制度は納税者が正しい申告をすることがその存立の基礎をなしており、納税者の適正な申告義務の履行を確保するため税務官庁の職権調査権限が存在する。従って、調査権限は広く申告の適否を確認する必要がある場合にもその行使が認められるべきものであり、納税申告の適否確認のため質問検査権を行使することは、所得税法二三四条一項に定める「調査のため必要があるとき」に該る。また、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知は質問検査を行ううえの法律上の要件ではなく、調査に着手する際には、何年分の所得税を調査する旨告知すれば足りる。

ところで、青色申告制度は、誠実で信頼性のある帳簿書類の記帳を約束した納税者に対して、その帳簿書類に基づき所得額を正しく算定して納税申告することを期待し、税法上各種の特典を付与するものであるが、所得税法一五〇条一項一号にいう「帳簿書類の備付け、記録又は保存」とは、誠実に記録された帳簿書類を税務職員が必要にじて、いつでも閲覧しうる状態にしておくことを意味する。

以上を本件についてみるに、被告職員は原告の昭和四五年分、同四六年分の申告額が正しいかどうか確認するため調査を実施したのであり、かつ、調査に際して右目的を原告に告知している。また、被告職員が原告方に数回にわたって臨場し、その都度帳簿書類の提示を求めたのに、原告は正当な理由もなくこれに応じなかった。従って、原告の右行為を所得税法一五〇条一項一号に該るものとしてなした本件青申取消処分に何ら違法は存しない。

3  同5は争う。

本件質問検査が正当なものであることは前述のとおりであるところ、反面調査は質問検査の一態様であり、質問検査につき実定法上特段の定めのない実施細目は、税務職員の合理的な選択に委ねられており、臨宅調査等が不可能な場合にはじめて反面調査が許されると解されるべきものではない。ところで、本件においては、被告職員の数回の臨場、帳簿書類の提示要求にもかかわらず原告はこれに応じなかったのであるから、被告職員の合理的選択により反面調査を実施したのは当然の責務を果たしたもので、何ら違法は存しない。

三  被告の主張

1  (昭和四五年分課税処分について)

原告の昭和四五年分所得金額は別表1B欄記載のとおりである。

(一) 売上金

(1) 原告の顧門税理士が、原告から提出された書類を資料として算定したところ(乙第一号証の二)によると二一七七万六一二〇円である。

原告は右金額から合理的な理由もなく九〇万円を控除して売上金額を二〇八七万六一二〇円とし、リベートに係る雑収入を一四一万九八四六円と申告していたが、昭和四五年一月二九日の収入に係る資生堂からのリベート五七万八五〇〇円の脱漏が発覚し、本件更正処分において右リベートを雑収入に加算されたところ、原告はこれを否認困難とみてか、これを雑収入と認め、その代り、これと同額の五七万八五〇〇円を前記申告売上金額から控除して、売上金額を二〇二九万七六二〇円と主張している。

(2) 仮に、税理士の算定が採用しえないとしても、売上表(甲第四号証)の合計金額一八五六万〇五七〇円に外売人による販売高(乙第六号証の二)四一一万八五〇〇円を加えた二二六七万九〇七〇円が売上金額である。(予備的主張1)。

(3) 仮に、右主張が彩用されないならば、売上金額につき実額計算しうる帳簿が存在しないことになるため、推計により売上金額を計算するほかはなく、売上原価一七一二万五五一二円を推計の基礎数値とし、これに原価率〇・七四(乙第六号証の三に基づいて計算)を適用すると、売上金額は二三一四万二五八三円となる(予備的主張2)。

(二) 売上原価

昭和四五年一月一日を期首とし同年一二月三一日を期末にとると、期首たな卸高は四九一万二四〇五円、期末たな卸高は五一二万九一一九円となる。原告は期首を昭和四四年一二月一六日とし、期末を昭和四五年一二月一五日として誤った処理をしている。

(三) 事業専従者控除額

青申取消処分の結果、青色専従者給与の必要経費が認められず、事業専従者一人につき一五万円ずつ、原告の場合は専従者が三人であるから合計四五万円の控除が認められるにとどまる。

(四) 貸倒引当金繰入額、価額変動準備金積立額

青申取消処分の結果、右両経費の算入は全く認められない。

2  (昭和四六年分課税処分について)

原告の昭和四六年分所得金額は別表2B欄記載のとおりである。

(一) 売上金額を実額で計算するに足る帳簿、資料が存しないため、昭和四六年分の売上原価を基礎に同四五年分の原価率を適用して推計するほかない。ところで、昭和四六年分の売上原価は一八三八万九五四九円であり、昭和四五年の原価率は〇・七八六五(1-{21,776,120-17,125,512}÷21,776,120)であるから、売上金額は二三三八万一四九九円となる。

18,389,549円÷0.7865=23,381,499円

(二) 仮に、右原価率が認められないとしても、別表1B欄の予備的主張1及び2を用いて右同様の推計をすると、売上金額は二四三五万〇五六八円(予備的主張1)或いは二四八五万〇七四一円(予備的主張2)となる。

3  (まとめ)

いずれにせよ、原告の昭和四五年分及び同四六年分の事業所得金額は本件課税処分の認定額を上回っており、被告の課税処分に違法はない。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  (昭和四五年分課税処分について)

被告の主張1の(一)ないし(四)は争う。原告の昭和四五年分所得金額は別表1A欄記載のとおりである。

(一) 売上金

原告の顧門税理士の算定は信用できない。原告の売上に関する記帳は、現金売上、掛売、外売人に対する店頭売については売上伝票を切り、これを月別売上表(甲第四号証)にまとめて記載し、外売人に対する委託売については売上伝票を切らず、入金があったときに書類に記載して集計(甲第五号証の一の右端欄)している。従って、月別売上表の合計一八五六万〇五七〇円に外売人に対する委託売一七三万七〇五〇円を加えた二〇二九万七六二〇円が売上金額である。

(二) 売上原価

原告は各年において一二月一五日をたな卸の期末とする処理をしているのであるから、昭和四五年分についても期末を一二月一五日とするのが正しい会計処理である。

(三) 事業専従者控除額、貸倒引当金繰入額、価額変動準備金積立額

被告の青申取消処分は違法で取消されるべきであるから、原告が主張するとおり控除或いは経費の算入が認められる。

2  (昭和四六年分課税処分について)

被告の主張2の(一)(二)は争う。原告の昭和四六年分所得金額は別表2A欄記載のとおりである。なお、売上金額は二〇七〇万三八二〇円、売上原価は一八二一万〇三七〇円であるが、仮に、売上原価が被告主張のとおり一八三八万九五四九円であり、昭和四五年分の原価率を用いて売上金額を推計するとしても、右原価率は〇・八四八八(1-{20,297,620-17,227,935}÷20,297,620)であるから、売上金額は二一六六万五三五〇円となる(18,389,549円÷0.8488=21,665,350円)。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証、第二号証の一、二、第三号証の一ないし一二、第四号証の一ないし一二、第五号証の一ないし五、第六号証の一ないし五、第七、第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証の一ないし一二、第一一ないし第一五号証

2  検甲第一ないし第四号証(昭和五一年一二月一〇日当時の、鎌田冨士夫より原告が返還を受けた風呂敷包み或いは書類の写真である)

3  証人田嶋勝蔵、同伊織キヌヱ、同岡本茂、同鎌田冨士夫、原告本人(第一、二回)

4  乙第三ないし第五号証、第六号証の一ないし三、第七ないし第一三号証、第一七号証の成立(第八ないし第一一号証については原本の存在も)を認める。第一号証の一、二は国税局作成部分の成立は認め、その余の部分の成立は不知。その余の乙号各証の成立は不知。

二  被告

1  乙第一号証の一、二、第二号証の一ないし四、第三ないし第五号証、第六号証の一ないし三、第七ないし第一七号証

2  証人岡本茂、同鎌田冨士夫、同飯田滋蔵

3  甲第四号証の一ないし一二、第七号証、第一一、第一二号証、第一五号証の成立は認める。その余の甲号各証の成立は不知。

4  検甲第一ないし第四号証が原告主張のような写真であるかは不知。

理由

1  (事件の経過及び訴の利益)

請求原因1ないし3は当事者間に争いがない。右事実によると、被告のなした原告の昭和四五年、同四六年分所得税の各更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、国税不服審判所長が昭和四九年三月二〇日付裁決で取消した部分については、既に原処分としては存在していないのであるから、右部分につき再度取消を求める請求は訴の利益を欠き、却下されるべきである。

2  (青申取消処分について)

成立に争いのない乙第一二号証、証人田嶋勝蔵(一部)、同岡本茂の各証言、原告本人の供述(第一回の一部)及び弁論の全趣旨によると、被告税務職員が原告の昭和四五年分及び同四六年分の所得税確定申告の適否を確認するため原告方に臨場し、右調査目的を告知したうえ原告本人に対し、帳簿書類の提示を求めたにもかかわらず、原告は右要請に応じなかったことが認められる。

ところで、所得税法二三四条一項の「調査のため必要があるとき」には、納税申告の適否を確認するため質問検査権を行使することも含まれるし、また同法一五〇条一項一号の「帳簿書類の備付け、保存」とは、税務職員が必要に応じていつでも閲覧しうる状態にしておくことを意味すると解すべきところ、右認定のように、原告は、納税申告の適否を確認するため臨場した被告税務職員の閲覧要求に応じなかったのであるから、原告の右行為は同法一五〇条一項一号に該当することが明らかであり、被告の青申取消処分は正当であって、何らの違法も存しない。

なお、原告は右に認定した事実とは別の事実を挙げて、本件青申取消処分の違法を主張するので若干の検討を加えると、第三者の立会いは、税務職員の守秘義務及び非税理士に税理士業務を容認することになり税理士法違反の疑いを生ずることから、これを認めることはできないし、また、民主商工会を弾圧するために原告を調査対象としたと認めるに足りる証拠はない。被告税務署員が暴言等を吐いたという点については、証人田嶋勝蔵、同伊織キヌヱ、原告本人(第一回)は右事実に沿う旨の供述をするが、右供述はたやすく信用できず、他に右事実を認めるに足りる証拠もない。

3  (反面調査について)

取引先の調査等のいわゆる反面調査は質問検査の一態様であり、また実定法上反面調査についてその調査順序を定めた規定はないところ、質問調査の範囲、程度、時期等、実定法上特段の定めのない実施細目については、社会通念上相当な程度にとどまる限り、調査を行なう税務職員の合理的な選択に委ねられている。

本件では、全証拠によるも、社会通念上相当な程度を超えた反面調査が実施されたと認めることはできないから、請求原因5(一)は原告の独自の見解を主張するものであって、採用できない。

4  (昭和四五年分課税処分について)

(一)  売上金

(1)  売上金額の認定

証人鎌田冨士夫の証言により真正に成立したと認められる乙第一号証の二、証人鎌田冨士夫の証言、原告本人の供述(第一回の一部)によると次のことが認められる。

原告は、昭和四〇年ころから税理士鎌田冨士夫に所得税の確定申告業務を依頼していたが、昭和四五年分の売上に関する鎌田税理士への報告は、原告が一か月の売上を集計して作成した月別売上集計表等によってなされ、鎌田税理士は原告が毎月持参する右月別売上集計表等に記載された数字をそのまま転記して別の集計表(乙第一号証の二)を作成した。

ところで、右月別売上集計表には現金売と掛売との区別がなされていたのであるが、それを転記した乙第一号証の二によると、昭和四五年分の現金売は一二八六万六〇六五円、掛売は八九一万〇〇五五円であるから、同年の売上金合計は二一七七万六一二〇円である。

原告は、乙第一号証の二は信用できないというのであるが、鎌田税理士が右書証を作成するにあたって参照した資料は、右認定のとおり原告が作成した月別売上集計表であり、また、顧門税理士が依頼者から提出のあった資料を無視して、提出資料に記載のある数字より多い売上金額を独断で記載して所得決算をすることは到底考えられないから、少なくとも乙第一号証の二に記載のある額の売上があったとみるのが相当である。この点、原告は、鎌田税理士に提出していた月別売上集計表は甲第四号証の一ないし一二であると供述し、乙第一号証の二が右甲第四号証の一ないし一二に記載のある数字と異なることをもって、右乙号証の信用性について論難するが、証人鎌田冨士夫は右甲号証が原告より毎月提出のあった月別売上集計表であるかは不明であると証言するところ、結局乙第一号証の二の作成経緯及び信用性については前記のとおりであるから、甲第四号証の一ないし一二が鎌田税理士に提出していた月別売上集計表であるとする原告の供述自体信用できない。

(2)  原告の主張する金額

成立に争いのない甲第七号証、乙第五号証、第六号証の二、原本の存在及び成立に争いのない乙第八号証、原告の供述により真正に成立したと認められる甲第三号証の一、証人鎌田冨士夫の証言により真正に成立したと認められる乙第二号証の一、二、証人鎌田冨士夫、同飯田滋蔵の各証言によると次の事実が認められる。

原告は、昭和四五年分の所得税青色申告書において、売上金額二〇八七万六一二〇円、雑収入(リベート)一四一万九八四六円、右合計である総収入額を二二二九万五九六六円と申告していたが、その後本件課税処分の過程において、昭和四五年一月二九日に資生堂から銀行振込のあったリベート五七万八五〇〇円が雑収入額から脱漏していることが判明したため、原告自身、雑収入に右リベートを加算することを容認したものの、総収入額は依然として二二二九万五九六六円に固定したうえ、逆に、売上金二〇八七万六一二〇円から五七万八五〇〇円を控除し、売上金額は二〇二九万七六二〇円であると主張している。

ところで、原告が当初売上金として申告していた金額二〇八七万六一二〇円は、鎌田税理士が作成した集計表の売上金額二一七七万六一二〇円から九〇万円を控除した額であるが、これは原告と鎌田税理士が確定申告前に決算確定のため話し合いを持った際、原告から鎌田税理士に対し、外売人による化粧品の委託販売中に、一旦売掛金発生科目として計上したものを、数日集金したときに重複して再度現金売科目として計上したものがある旨弁明があったため、右両名が相談したうえ、売上金合計から九〇万円を控除したことによるものである。その際、重複のある品目、数量、売上年月日等取引の具体的内容が全く判明しなかったため、概算として控除額を九〇万円にした。

この点、原告は、外売人による委託販売については外売人に対し小売値の二割を歩合として渡すため、実際の販売高としては、昭和四五年分の外売人による販売高四一一万八五〇〇円(乙第六号証の二)の約二割に相当する九〇万円を売上金合計から控除すべきであるとも供述し、前記重複計上との関係が不明瞭なのであるが、もし重複計上があったとするならば、原告は、前記月別売上集計表を作成したうえ、これを毎月鎌田税理士の許に届けていたのであるから、昭和四五年途中において右事実に気付くはずであって、所得の最終決算段階になって一年間の重複計上全てに気付くというのは不自然であるし、また、重複していることを裏付ける帳簿書類が全て存在しないこと自体不可解である。また、外売人に渡していたという歩合を控除すべきであるというならば、それは昭和四五年分の所得税確定申告以前にも右事実が存在したはずであるのに、鎌田税理士は昭和四四年分の所得税確定申告前に右事実を原告から聞き及んだことはないというのであるから、この点に関する原告の供述は措信できない。

なお、当初の申告売上金額から脱漏リベート分五七万八五〇〇円に見合う金額を控除して、売上金額を主張していることは、その経過からして実態とは離れた金額の操作を疑わせるものである。

(3)  原告の主張に沿う証拠の信用性

原告(第一回)は次のように供述する。即ち、原告の小売り方法は大別して、店売り(以下「A方式」という。)と外売りの二つがあり、外売りには外売人による委託販売(原告から販売してもらいたい商品を事前にまとめて外売人に渡し、その商品を外売人に売ってもらう方式。以下「B方式」という。)と外売人が商品を特定して原告方から持ち出す販売(以下「C方式」という。)の二つの形態がある。そして、A方式及びC方式では、売上ないし店からの持出しがある度に売上伝票を切り、これを売上表(甲第四号証の一ないし一二、第一三号証)に記載しているが、B方式では、売上伝票を切らず、右売上表とは別に外販分入金表(甲第五号証の一)を作成している。従って、甲第四号証の一ないし一二(ないし甲第一三号証)の合計額に、甲第五号証の一の右端欄合計額を合算したものが売上金合計であって、それが甲第五号証の四にまとめて記載してある、というのである。

確かに、右各証拠には原告が本件訴訟において主張している売上金額に沿う記載があるが、前記(2)で認定したように、当初の申告売上金額から脱漏していたリベート分と符合する額を控除した本件主張売上金額と合致すること自体がそもそも不自然なのであるから、右各証拠が信用できないのは当然の理である。

なお、原告は、昭和四五年分の売上伝票として甲第一〇号証の一ないし一二を提出するが、右売上伝票をもとにして作成したと供述(第一、二回)する売上実積表ないし売上表(甲第一三号証、第四号証ないし一二)と当裁判所において右売上伝票を月別に集計して計算を試みた額とを対比してみると(被告の昭和五四年三月七日付求釈明書添付の別表2の1ないし5参照)、両者は殆んど一致をみない。

また、現金売に係る売上伝票が全ての現金売に対して正しく作成されているかどうかは、現金管理が正確に実施されているかどうかによって検証されるべきところ、証人飯田滋蔵の証言によって真正に成立したと認められる乙第一五号証及び同証言によると、本件審査請求の際、原告が提出した書類(乙第八号証、甲第三号証の一ないし一二等)によって現金のあり高を検討すると、右あり高がマイナス(赤字)になる月が一年の大半にわたることが認められる。この点につき、乙第三号証及び前記飯田証言中に、家計用の現金あり高については調査せず、昭和四五年一月一日現在の事業用の現金あり高二六万八七六〇円を基礎にして乙第一五号証を作成したとあることをとらえ、原告訴訟代理人は飯田証人に対する尋問において、原告が審査請求で提出した書類に記載のある出金は家計用の現金からなされたものかもしれないから、事業用の現金のみを基礎に検討を加えた乙第一五号証は、原告の現金管理の正確性を検証する証拠としては採用しえない旨主張する。しかし、事業用の現金を家計用の支出に用い、その旨事業用の帳簿に記載することがありうるのは格別、家計用の現金から支出した金額について事業用の帳簿に記載するということは通常考えられないから、右提出書類に記載のある出金は全て事業用の現金からなされたとみるのが相当であって、乙第一五号証の信用性に疑義を差しはさむ余地はない。

要するに、以上認定の事実は原告の現金管理、ひいては売上伝票作成作業の杜撰さを物語るものであって、甲第一〇号証の一ないし一二を原告が主張するような証拠としては採用しえない。

(二)  売上原価

昭和四五年分の原告の仕入金額が一七三四万二二二六円であることは当事者間に争いがない。原告の供述により真正に成立したと認める甲第八号証、第九号証の一、二、成立に争いのない乙第三号証、第六号証の三、第七号証、第一七号証、証人飯田滋蔵の証言、原告本人(第一回)の供述及び弁論の全趣旨によると、原告は期首を昭和四四年一二月一六日とし、期末を昭和四五年一二月一五日としたうえ、本件売上原価を主張しているが、所得税法及び国税通則法一五条によると、申告年にかかる所得税の算定は一月一日を期首とし一二月三一日を期末とすべきことが明らかであり、右規定に従って算定すると、昭和四五年の期首たな卸高は四九一万二四〇五円、期末たな卸高は五一二万九一一九円であることが認められる。従って、売上原価は一七一二万五五一二円である。

(三)  事業専従者控除額

青申取消処分が適法であることは前記認定のとおりであるから、専従者が三人である本件では合計四五万円の控除が認められるにとどまる。

(四)  貸倒引当金繰入額、価額変動準備金積立額

青申取消処分の結果、右経費の算入は認められない。

(五)  結論

別表1記載の番号3ないし5、7、12は当事者間に争いがない。従って、昭和四五年分の課税される所得金額は三二九万三〇〇〇円であり、昭和四五年分課税処分はその範囲内でなされているから何ら違法は存しない。

5  (昭和四六年分課税処分について)

別表2記載の番号3ないし5、7、9について当事者間に争いがない。

昭和四六年分の売上金につき実額計算しうる帳簿として当裁判所に提出されている証拠は乙第一一号証、第一三号証のみであるところ、成立に争いのない甲第七号証、乙第一二号証、証人飯田滋蔵の証言により真正に成立したと認める乙第一四号証、第一六号証、証人飯田滋蔵の証言によると、日々の売上伝票に基づいて作成したという乙第一三号証と、審査請求段階で原告が提出した右売上伝票とを対比してみると、双方で殆んど一致せず、乙第一一号証によって現金あり高を検証すると一月から五月までをとってみても、そのうち三月から五月までがマイナス(赤字)になっていることが認められ、結局乙第一一号証、第一三号証は採用できず、売上金につき実額計算しうる資料が存在しないことに帰する。

ところで、昭和四五年と同四六年とで取引状況に格段の相異があったことは全く窺えないから、昭和四六年分の売上金額は同年分の売上原価を基礎に昭和四五年分の原価率を適用して、推計するほかないのであるが、前記4で認定した額で原価率を算出すると〇・七八六五(1÷{21,776,120-17,125,512}÷21,766,120)

売上原価につき、原告は一八二一万〇三七〇円、被告は一八三八万九五四九円と主張するのであるが、双方の主張する売上原価に右原価率を用いて売上金額を出し、課税される所得金額を算出すると、いずれの主張によっても被告の昭和四六年分課税処分はその範囲内でなされたことが明らかであって、右処分に違法はない。

<1>  原告

18,210,370円÷0.7865=23,153,680円 売上金額

従って、課税される所得金額は、3,313,565円である。

<2>  被告

別表2被告主張左端欄のとおり

6  (結論)

よって、本訴請求のうち、裁判によって取消された部分につき取消を求めるのは訴の利益を欠き不適法であるから却下し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 惣脇春雄 裁判官 高橋水枝 裁判官 竹中良治)

別表1(昭和四五年分)

<省略>

別表2(昭和四六年分)

<省略>

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